ゲームは楽しくなきゃ意味がない【物語】
ゲートが開いた。
心音が早くなる。焦りながら出口まで一直線に走った。
無事に脱出完了し安堵する。
ゲーム下手な私は、ハンターに追われるといつも逃げ切ることができない。だからいつもできるだけ隠密行動を心掛け、脱出のための暗号機解読に徹する。
もしハンターに見つかって追われようものなら、捕まることへの恐怖心からただ前だけ向いてがむしゃらに逃げてしまうが、それではすぐにつかまってしまうのだ。
そんな私とは対照的に、彼は追われることを楽しんでいる。敵の方をみながら逃げ、上手く攻撃をかわしつつ走る。
捕まったら捕まったで、「いやー、うまいなあ」なんて感心しながら楽しそうに笑っている。
彼はむしろ負けたがりなんじゃないかと思う。絶対無茶だと思えるようなリスクのありすぎるプレイをする。「何やってんの」って言ったら、「このドキドキが楽しいんだろ」って返された。
先月、彼の誕生日は外でごはんを食べた。
彼はお肉が好きだから、普段は行かないちょっと高めの牛タンのお店に連れていってあげようか、それとも美味しいと有名なすき焼き屋にしようか。
いろいろと案が浮かんで決められなかったので、リクエストはないか聞いてみた。
「何食べたい?」
「うーん、そうだな。駅の近くに新しくできたトルコ料理屋行ってみたいな。」
ええー、と思った。誕生日くらい絶対美味しいと分かってるお店にしようよ。あのお店の外観の独特な雰囲気は彼の興味を引いてしまったようだが、味については冒険でしかない。
「トルコ人が開いてるお店らしいよ。俺トルコ料理って初めてだわ。」
彼の中ではもうトルコ料理に決定みたいだ。誕生日の主役自らの希望なので、しょうがないかと折れることにした。
「メニュー見てもどんな料理か全然想像つかないね。」
「うん。あ、これなんか名前の雰囲気的に美味しそうじゃない?」
そんな感じで直感で選んだトルコ料理は、不味くはないか特段美味しくもない、微妙な味だった。
誕生日のお祝いとしては失敗な店だったなぁ。そう思っている私の隣にいる彼は、やっぱり楽しそうだ。
「店員さんの接客最高だったね。どうやって日本語学んだらあんな寿司やの板前さんみたいな接客になるんだろ。」
味のことなんか全く気にせずケラケラ笑っていた。
「1年休学してインドに行こうと思う。」
就活を目前にインターンなどに行き始める大学3年のある日、彼は言った。
「現地にいる知り合いが面白そうな事業始めるらしくて、参加しないかって声かけてくれたんだ。」
そう説明してくれる彼の目は、新しい挑戦への期待で輝いていた。
治安は大丈夫か、事業は上手くいくのか、就活が遅れてしまう、そんな心配はほとんどないように見える。
いつもそうだ。
彼は失敗を恐れない。それさえも楽しんで、常に何かに挑戦しつづける。
人生は壮大なゲーム、そんなふうに遊び尽くす彼が眩しい。
「行ってらっしゃい。帰ってくる頃には、きっと私もハンターを翻弄できるようになってるからね。」