白いお部屋

シンプルに幸せを見出す人のお話。

彼はいつも嘘をつく。【物語】

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月曜日の朝、小学校までの道のりは班長の六年生が下級生を引き連れて集団登校。

 

でも私の班は五年生が二人だけ。一丁目は小学生が少なくて、となりに住んでる幼馴染の彼と二人で通学している。今日も集合時間を5分すぎてから彼はやってきた。

 

「遅れてごめん。母さんが寝坊して、朝ご飯が遅くなっちゃったんだ。」

 

彼はいつも嘘をつく。

 

彼のお母さんは、毎週月・水・金曜日は早朝から仕事だって、ママが話してた。だから、本当はお母さんの寝坊が原因ではない。

 

「いいから急ぐよ。」

 

少し急いで歩かないと学校に遅刻してしまう。ランドセルについたお守りの鈴がちりんちりんと激しく鳴った。

 

 

 

 

夏休み明け。久しぶりにクラスの友達に会える新学期初日。みんな休み中に何をしたかという話で盛り上がっている。

 

「僕は家族でハワイに行ったんだ。海がキラキラしててきれいだったなあ。」

 

どこに行ったのか聞かれた彼はそう答えていた。今日も嘘をついている。

 

だって、夏休み中はほとんど毎日一緒に過ごしたのだから。彼の4歳の妹も一緒に三人で、彼の家で遊んだり、私の家でお昼ご飯を食べたりしたんだ。

 

一緒に行った市民プールの水面は、たしかにキラキラしていたけれど。

 

 

 

 

毎週木曜日の五時間目は、高学年だけクラブ活動がある。私は家庭科クラブに入った。だって手芸じゃない日はクッキングだから。食べるのが大好きな私のためのクラブといえるだろう。

 

その日最後の授業なので、活動が終わる時間はクラブによって結構バラバラ。サッカークラブは今日は早く終わったみたいだ。

 

だから途中まで同じ道の家庭科クラブの子と、次は何を作って食べたいか話しながら帰った。

 

スーパーのわきの交差点で別れ、遊び慣れた公園の前を通ったとき、ランドセルを背負った男子たちが公園にいるのが見えた。

 

彼もいる。公園に足を踏み入れたタイミングでちょうど彼といた六年生たちが帰っていった。

 

「大丈夫?」

 

彼はちょっと、いや、結構ボロボロだ。

 

「うん、大丈夫。そんなにひどくないよ。」

 

私は少し考えて、ママにあげるつもりだったクッキーを彼に渡した。

 

「美味しくできたから、あげる。」

 

帰り道、今日のクラブ活動について話しながら歩いた。家の前についてからも少し立ち話を続けていると、彼のお母さんが帰ってきた。めずらしく今日は早く帰ってきたようだ。

 

「あら、どうしたの?こんなに汚れて!」

 

「サッカークラブで試合したとき、転んじゃったんだ。ちょっとすりむいちゃっただけだから大丈夫だよ。」

 

運動神経の良い彼が、遊びのサッカーでけがをするわけがない。体育のときだって何をやっても一番上手いのだ。きっと、今日の試合でもたくさん活躍したんだろう。

 

そしてあらかたそれが、やんちゃで有名なあの六年生たちの気に食わなかったんだろう。

 

彼はよく嘘をつく。

 

ただお母さんを想って、嘘をつく。私は彼が、優しくて強い人だと思う。母子家庭になってから、大変でも一生懸命育ててくれる母を支えようとしている。

 

朝、彼が妹を保育園に送っていってること、私は実は知っている。彼は、普通の親がやっていることができない母だと思われたくなくて、隠しているようだけど。

 

子供にいろいろしてあげられないと気にしている母の気持ちに、彼は気づいている。

 

今日も、本当のことをごまかして平気な振りをしている。心配をかけたくないようだ。

 

だから私は、彼の嘘に気づいていても、あまりなにも思わない。根底が愛ならば、嘘かどうかは重要じゃないのかもしれない。

 

「このクッキー、母さんにもってくれたんだよ。」

 

ほら、また彼は嘘をつく。