白いお部屋

シンプルに幸せを見出す人のお話。

「心に穴が空いた」のMVをみて、曲と全く関係ない物語を創造した。

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何処にあるかわからない場所。
でも確かにこの世界の何処かに存在しそうな場所。
君が描く世界はいつも僕にそんな印象を抱かせる。

 

赤い屋根にオレンジの家々が立ち並ぶ街。
海辺に建てられた灰色の堅牢な砦。
見上げんばかりの石柱に美しいアーチがかかる遺跡。
どこか廃れたその空間に、なぜかとても心が惹かれる。

 

こんな場所に行ってみたいな。蒼然たる大地に紫の花が咲きみだれる世界のまん中に佇む、少し崩れた石の塔。その絵を指して僕が言う。

 

君は微笑んで、一番好きだった場所と言った。

 

 

 

想像力は経験に培われる、という僕の持論は君に覆された。
世界中を旅してきた僕よりも、ずっとここにいる君の方が美しくてリアルな景色を描く。
映画よりも読書が好きな君。本を沢山読んだら、僕も君みたいに想像力豊かになれるだろうか。

 

行ってくるねという僕を、笑顔で見送ってくれる君の目の奥はいつもどこか寂しい色をしている。そう感じるのは、帰ってきたときの君の瞳があまりにもキラキラしているからだろうか。

 

薄い雲がかかる空に沈む夕日。太陽が水面に反射している。綺麗な夕焼けだねと言ったら、それは朝焼けだよと返された。

 

海がみえるのは東側だからと。

 

 

 

永遠なんてない。
そんな歌詞みたいな言葉が頭に浮かんだ。
知っているのと理解しているのは別だ。君のいない家に帰ってきて、初めて日常が日常じゃなくなる可能性を実感した。

 

大丈夫もう元気だよと笑う君。良かったと返す僕の目はいつものように笑えていなかったかもしれない。あと一年もないことを実感してしまったから。

 

森の中、たくさんの木々の中でとりわけ立派な木の根元に寄り添う1人の女性。木々の隙間から光が差し込み、暖かいテイストなのに哀愁を帯びている。

 

素直に感想を伝えたら、そこは最期の場所だよと教えてくれた。

 

 


一瞬一瞬を大切に過ごした。
お互いそうだった。今この瞬間を大切に過ごしたら、毎日とても幸せだった。

 

幸せが今ここにあるのに、未来を想像して悲しむなんてもったいないだろうと君が言った。そうかもしれないと思った。

 

君がいなくなって、心に穴が空いた。この感覚は頑張ってどうにかできるものではない。だだ、目を背けず、無理に埋めようともせず、静かに見つめていた。

 

君の描いた絵を見返していたら、僕たちが過ごしたこの場所があった。思い出した。何処かにありそうな場所じゃなくて、何処かにある場所だ。裏にメモ書きがあった。幸せな気持ちを思い出せるように描いたよ。

 

君が今一番好きな場所だろうから。